理事長 矢代 公明 .

ほんとうに
「子ども一人ひとりを見る」ということ

より、手と目を掛ける必要



1.幼稚園は子どもを教育する場です、しかし、幼稚園では教育という言葉ではなく「保育」ということばが使われます。子どもたちは教育を受けるだけでなく同時に保護(擁護≒ケアー)を受けなければならないという意味です。最終的には子どもの自律を目指すのはもちろんですが、自律までの過程においては、子どもたち一人ひとりの「発達段階・個性・隠れた能力」を見きわめ、子どもたちを導く「保育者(ヒト)」の存在が重要な役割をしめます。

 言い換えれば、単に知識や技能を伝達するだけでなく、子どもたちが育ってゆく上で、一人ひとりへのケアーが必要だと言うことになります。

「一人ひとりをケアーする」=「一人ひとりを見る」ということは、一人ひとりに手を掛けると言うことでもあります。たしかに一人ひとりをケアーしていくことは、保育者には「子どもを見きわめる能力」と「多くの手間」とが要求されます。

 最近では違う方針の保育を薦める幼稚園も増えているようですが、私共は3・4・5歳の時期は子どもたちにき目細かに目や手を掛ける時期だと考えています。幼稚園に通う年齢の子どもたちは「手を掛けられるべき」だとの考え方をしているのです。

 私共の幼稚園は広いとはいえません。しかし、また、その環境ゆえもあり「一人ひとりに手を掛け、ケアーしてゆく」ことには自信があります。

 この限られたスペースの中であえて保育者一人ひとりの紹介をいたしました。それは「保育者一人ひとりの存在と能力」が大切であると考えるからです。そして、それが「子ども一人ひとりを大切にする」幼稚園の姿勢に通じることを、感じていただけると思います。

2.「経験学習」とは「児童中心主義」とも呼ばれ、子どもの自主性を大切にする教育方法です。「系統学習」とは大人が考えた順番に子どもを教え、導く教育方法です。そして、この「経験学習」的保育と「系統学習」的保育を‘適時適所’で使い分けることが大切だと思っています。

 実は、日本の昭和以降の教育の国の方針の歴史、特に戦後以降の教育方針はこの「経験学習」的教育法と「系統学習」的教育法の間を、ちょうど「時計の振り子」のように行ったり来たりしてきました。一長一短があるのです。

 ところで幼児の保育方針については、今は「幼児の自主性」が主流のようです。ところが、例えば文部科学省の「幼稚園教育要領(告示)」では保育の「ねらい及び内容」を事細かにあげ「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を示しています。

 「幼児の自主性」だけで「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」に育ってくれれば理想ですが、実際には「これは、してはだめ」の沢山の「お約束」を保育者とすることになったり、保育者が子どもの行動を制止する機会ができてしまいます。禁止や制止は「幼児の自主性」の芽をつんでしまいます。

 やはり「系統的学習」的発想で導くことが必要な時もあります。また「系統的学習」的保育を行なわなければ「はさみ」「のり」も使えるようにならなかったりします。ですから、この幼稚園では‘適時適所’バランスよく、この二つを使い分けています。


「子どもが育つために必要なこと」

今しかできない基礎的なことを大切に



 幼稚園に通う年齢の子ども。3・4・5歳の子どもが身につけなくてはならないことは何でしょうか。基本的生活習慣は言うに及ばず、まずは人間関係。3歳で入園し、子どもはまず保育者との関係を築きます。そして小人数の友達との関係、やがて4・5歳になりグループ同志の交流や、学級・学年やがて全園児の協調へとつながって成長してゆきます。その成長を助けてゆくために保育者は環境を設定し、子どもたちにいろいろな働きかけを行う必要があります。

 また、どうしても置き去りに出来ないのが「言語能力・運動能力・音楽能力」であり、また「疑問を持ち、それを解決しようとする能力(課題解決意欲・実証的思考能力)」であると考えています。子どもたちにはみんなこれらの能力を高める潜在能力を持っています。それをこの時期に引き出してあげるのが、幼稚園の仕事であると考えています。

 私共が設定する体験の場の一つ「運動教室」や「スイミング教室」も単にパワーやスピードを高めるために行っているのではありません。この時期に体を自由に働かせる能力を身につけておかず、運動嫌いや水泳嫌いの子どもになって欲しくないから行っているのです。

 また、逆さに言えば、この時期無理をして学習してもあまり効果のない分野は行わないことも大切だと考えています。


「かがやく子どもの目」が大好き

いごこちのよい園を目指して



 幼稚園の時期に是非体験しておいて欲しいことは、たくさんあります。でも、子どもに無理がかかってはなにもなりません。さきほどお話したようにケアーの結果として、まず幼稚園が子どもたちにとって「いごこちがよい」場でなくてはなりません。常にそれを目指します。

 そして子どもたちが「積極的・能動的」に人(友達・教員)や活動・行事と関わってゆけるよう注意をはらっています。子どもたちがそうして、よい関わり方をしている時、彼等の目はキラキラ・ワクワクと輝きます。私共はその子どもたちの輝く目が大好きです。